▼ ニュースのポイント
①Googleが統合MLプラットフォーム「Vertex AI」の小売業者向け支援ツールを発表した。
②AIによる高精度な需要予測が可能で、事業計画や在庫管理、物流設計などを最適化できる。
③高度な専門知識も膨大な過去データも不要、簡単導入ですぐに活用できる点も魅力。
小売業者の成功を引き寄せる最新ツール
Googleは米国時間の19日、小売業者向けの最新ツールとして、高精度な需要予測を可能とする「Vertex AI Forecast」を発表した。
AIの活用により、社会のトレンドや市場動向など、多様な分野の影響要素をリアルタイムの予測を行うように機械学習で計算し、より正確な需要予測として提示して事業展開をサポートする。
「Vertex AI」は、導入・運用難易度を低く設定し、人々が幅広く使える機械学習(ML)関連サービスの統合プラットフォームとしてGoogleが開発し、提供を進めているもの。「Vertex AI Forecast」も、このマネージド型プラットフォームの一部をなす機能ツールとして開発された。
小売業者やサプライチェーンにとって、市場の需要予測はきわめて重要な課題であり、いかに正しい読みを行うことができるかが成功の鍵であると言っても過言ではない。
いち早く正確に需要を予測できれば、効率的な事業計画を立て、無駄のない在庫管理を徹底し、物流の合理化を図るなど、顧客満足度の向上と売上の最大化を実現することができる。社会全体としても、適切な製品を適切な量、適切な場所に届けられるようになると考えられる。
在庫管理ひとつをとっても、顧客は品切れを嫌い、業者もせっかくの販売機会を逃すことは避けたいが、多すぎる在庫は無駄を発生させ、あらゆるコスト面で事業を圧迫する種になってしまう。
調査コンサルティングのIHL Groupによると、小売業者の在庫管理ミスによる年間損失は1兆円以上にもなるという。一方、需要予測の精度を10%から20%まで向上させると、在庫コストの5%削減と収益の2~3%増をすぐに実現できるそうだ。
効果を発揮させられるのは、在庫管理だけではない。繁忙期に向けて人員配置を工夫したり、プロモーションの実施を計画したり、オンライントラフィックの調整なども行える。
近年はグローバル化と情報化社会の進展で、利用可能なデータはより複雑に、膨大になり、正確な市場需要予測が困難となっている。新型コロナのパンデミック発生でも、目まぐるしく変わる動向がさまざまな問題を生じさせ、需要予測の難しさと課題を浮き彫りにしたのは言うまでもない。
Googleによると、小売企業が「Vertex AI Forecast」を導入、活用すれば、既存の需要予測の仕組みに機械学習の力を加えられ、優れて高い予測精度を実現できるようになるという。
導入は迅速・容易、すでに導入し業務変革を行った企業も
いかに優れたツールでも、導入・運用ハードルが高ければ利活用を進められなくなるが、「Vertex AI Forecast」は高度なデータサイエンスの専門知識を必要とせず、自動的にデータ処理を実行、数百にも及ぶ多様なモデルアーキテクチャを評価し、比較的管理しやすい単一モデルをパッケージング生成する仕様となっている。
手軽に使えるが、そのモデリングエンジンは強力で、「BigQuery」やCSVファイルから、何千という製品群の数年分の履歴データを網羅する、最大1億行のデータセットを取り込むこともできる。
ユーザー企業は、ブランドやプロモーションスケジュール、ECのトラフィック統計など、最大1,000種類の需要推進要因を指定し、予算を設定して予測をはじき出すことが可能になる。
2時間ほどのトレーニング時間があれば、手動のモデルチューニングなどは一切不要で、「Vertex AI Forecast」により最高精度の需要予測を可能にするオリジナルモデルを構築できるとされている。
その精度は世界トップの予測コンテストである「M5」におけるベンチマークテストで、最高の3%という正確さのパフォーマンスを発揮した実績からも保証される。
大手小売企業では、すでにこの「Vertex AI Forecast」を用い、業務変革を実現している事例もある。ブラジルの小売企業Magaluは、「Vertex AI Forecast」の導入で、以前の予測モデルより大幅に誤差を改善することに成功、在庫配分と適切なアイテムの適切なタイミングにおける適切な場所配置で顧客の需要を満たし、コストの適切な管理が可能になったという。
Magalu以外では、米国の住宅リフォーム・生活家電チェーンであるLowe'sもこれを活用、在庫配分や需要の高い商品補充の決定などに役立てている。
階層的モデルだから過去データが少なくてもOK
さらにこの「Vertex AI Forecast」は、階層的予測モデルの機能を備えているため、個々の製品や店舗レベル、地域レベルの需要を結びつけるなど、多様な複数のレベルで機能する予測を高精度に生成、組織のサイロによって生じる課題も最小限に抑えることができる。
階層的モデルは、過去データが乏しい場合にも強く、あるデータの結びつけによって全体的な精度を向上できるメリットがある。個々の製品需要を予測するには無秩序すぎるデータしかない場合でも、製品のカテゴリレベルでパターンを拾い上げ、高精度な予測結果を出すといった具合だ。
大量の構造化、または非構造化データを取り込むこともできるため、天候や製品レビュー、マクロ経済指標、競合企業の動き、商品価格、運賃、輸送業者コストなど多くの要素を含めた予測に対応する。
予測結果は、各需要推進要因がどのように寄与しているか明確にするかたちで示され、とるべき是正措置を分かりやすく、意思決定を迅速にする支援材料となり、多様なシーンで活用できるという。
(画像はプレスリリースより)
Google Cloud プレスリリース(公式ブログ発表記事)
https://cloud.google.com/blog/topics/retail/▼ 会社概要
Googleは、世界最大の検索エンジン事業をはじめ、インターネット関連の多様なサービス製品群を展開する米国の主要IT企業。その頭文字から「GAFAM」とも呼ばれるビッグ5のひとつでもある。
社名:Google LLC
CEO:Sundar Pichai
所在地:米国カリフォルニア州マウンテンビュー